【バス旅DATA】
路線:新店客運 849(烏來-臺北車站(公園))
乗車ルート・運賃:臺北車站(公園)→烏來 45元/1回
乗車時間:1時間15分
※運航時間・運賃・路線は変更される場合があります。
【バス旅ポイント】
①泰雅(タイヤー)族の文化や料理が堪能できる!
②大自然の中で露天風呂を満喫!
③公共露天温泉は水着、タオルを持参しよう!
⇒ 台北市バスの概要
ふたつの臺北車站バス停。違いはストリート名
台北駅前のバス停に着いたのは10時前。烏來(ウーライ)行のバスがなかなか来ない。いつ来るのだろう? バスは15分に1本程度で運行しているはずなんだけど……。行先も乗るときに確認するか。そう思いはじめたころ、青い車体のバスがやって来た。運転手が「行くよ、烏來」と言った。どうやらバスは循環しているらしい。ここは烏來から来たバスの終点であり、烏來行の始点であるらしかった。乗り込むと先客がいた。幸い座席は十分に空いていたので運転手の真後ろに陣取る。乗り込んだのは私ともう1人だけ。
乗客を乗せるとすぐにバスは発車した。走ること約30秒、再び止まった。次のバス停だった。気付けばこちらも臺北車站バス停。ただし通り名が違っていた。私が乗ったバス停は臺北車站(公園)で、このバス停は臺北車站(青島)。なんとなくこちらの方が駅に近い。ちょっと損した気分。ちなみに臺北車站(青島)は烏來行しか停車しない。
市街地を抜けた先は、碧の川と緑の山
中正紀念堂、南門市場、台湾大学と、窓の外には観光名所が流れる。だがそんな風景に喜んでいるのは私だけだった。乗客のほとんどは地元の人。温泉に行くというより生活の足として使っているのだ。
郊外のマンション群を抜け捷運新店站に着いた。ここはMRT松山新店線の終着駅。そのためこれより先に住む人には、このバスが欠かせない交通手段のようで、買い物を終えた地元民が乗り込んで来た。温泉に向かう観光客もここから乗る人が多い。車内は急ににぎやかになり、席も埋まった。
しばらく走り続けていると、ヒスイ色に輝く川面が見えてきた。その奥には緑色の山々。急に温泉地が近づいてきた雰囲気になり気分も盛り上がる。道はくねくねと曲がり、手にとれそうなほど木々が迫ってくる。ビンロウの木がなんとも台湾らしい。途中、山肌に沿って建つ集落が見えた。大規模な工事をしている場所にも遭遇。すでに山の中だった。
今ではバスで簡単に訪れることができる烏來だが、山深い場所にある。ここは台湾原住民・泰雅(タイヤー)族が多く暮らす土地であり、烏來とは彼らの言葉で「熱い湯、温泉」を意味するという。道路沿いには彼らを象徴する像が見える。温泉旅館が見えて来た。ブザーが鳴り堰堤(イアンティー)というバス停で何人か降りた。ここは木村拓哉がCMの撮影をした『馥蘭朵烏來渡假酒店』(新北市烏來區新烏路五段176号) をはじめとした高級ホテルが並ぶ。終点まであと2つ。
美しい滝や泰雅料理に舌鼓
バスを降り、みんなに付いて行くと、観光客相手の土産物屋と食堂、温泉宿が並んでいる老街が見えた。平日だったので人は少ない。少しぶらついてから早めの昼食をとることにした。立ち寄ったのは『泰雅婆婆美食店』(新北市烏來區烏來街14号)。珍しい山菜や山豬肉(イノシシ肉)、小米酒(アワ酒)など泰雅の特色ある食材が並ぶ。そのなかから名物の竹筒飯(竹蒸しごはん)、原住民特有のスパイス馬告(マーガオ)入りのスープ、川七(ムカゴ)の炒め物など、泰雅族の料理をオーダー。1人分にしてはちょっと多いかと思ったが、ペロリと平らげてしまった。どれもここでしか味わえない、自然を感じる素朴な味だった。
おなかも満たされたところで、泰雅族を深く知ることのできる『烏來泰雅民族博物館』(新北市烏來區烏來街12号)へ。その後トロッコ乗り場に向かったが運休中……。どうやら2015年の台風の影響で未だ復旧していないという(※訪問は2016年3月)。前にはタクシーが待機していて上まで運んでくれるというが、せっかくなのでのんびり歩いてみることにした。
宿の前で客引きをするおじさんに笑顔で応えながら山道を進む。ときおり車やバイクが通るが、それ以外はただ鳥の声が聞こえるばかり。歩いている人など誰もいなくて少し不安になる。ふと脇を見ると看板。ここは情人歩道(恋人の道)というらしい。静まり返った山のなか、素敵なパートナーでもいれば、2人の世界に浸れてさぞ楽しいことだろう……。そんなことを思いながらひたすら山を登って行く。額にはうっすらと汗が。そして歩くこと約20分、トロッコの線路が見えて来た。その先には細く、長く流れる烏來の滝も見える。爽やかな風が心地いい。
『烏來林業生活館』(新北市烏來區瀑布路1-2号)は、かつてこの地で盛んだった林業について学べる施設。訪問した時は、2015年の台風被害についての展示もあった。そしてバスから見えた工事現場は、その被害の修復だと知った。
※2015年の台風により運休となった烏來観光トロッコは、2017年8月26日に試験運転を開始し、 正式運転開始は2017年末を予定。
滝の向こうにある『雲仙樂園』(新北市烏來區瀑布路1-1号)へロープウェイで渡る。眼下には先ほどまで歩いていた街並みが小さく見えた。着いた先はホテルのある公園だった。そして目にしたものは台風のつめ跡。土石流で流されてしまったエリアは立ち入り禁止で、取り残されてしまった観光地という雰囲気が……。かつては台湾初のテーマパークとして大いににぎわっていたらしいが、昔の栄光は微塵も感じられなかった。
再びロープウェイに乗り、山を下って橋のたもとへ。『渼潞工作坊』(※2016年6月に『烏來泰雅民族博物館』内に移転)は泰雅人オーナーが手づくりした小物を販売する店だ。なかでも十字架モチーフの作品は台風の間にせっせとつくったのだという。ビーズのブレスレットが気に入ったので購入。
半裸のつきあい、地元民との交流を深める
店を出て、となりのセブン-イレブンを過ぎると標識があった。矢印に沿って階段を下ると多くの人が水着姿でくつろいでいた。川沿いにつくられた露天風呂、ここが烏來露店公共浴池だ。公共の露天風呂ながら打たせ湯やサウナ、足湯まである。しかも無料!
まず足湯につかってみる。ややぬるいが山道を歩いてきた足をじんわり癒してくれる。山と川の風景にも心が和む。するとおじさんが配管パイプのようなものを持ってやって来た。古くなった温泉の蛇口を交換するらしい。聞くとオジサンは毎日新北市の板橋區から通っていて、自分たちが使わせてもらっているのだからと、自ら掃除や修理をしているのだとか。そのおかげでみんなが気持ちよく利用することができるのだ。
今度は犬連れの姉妹がやって来た。ついでに犬の足も洗っている。彼女たちは私が観光客だと知ると、週末に来ないとダメだという。寂れ感は台風のせいばかりでもないのか。よし、次は週末に。でも渋滞は避けられないらしい。
気持ちよすぎて小一時間はボーっとしていただろうか。気が付くと人が増えていた。韓国からの家族連れも足湯の輪に入っていた。そろそろ交代の時間か。じんわりと汗をかいたところで湯船の方へ行ってみた。すると先ほどのパイプおじさんが更衣室に案内してくれた。といってもカーテンで仕切られた掘っ建て小屋なのだが。
台湾の温泉といえば「温泉奉行」が必ずいて、湯かけせずに入ったり、湯船で肌をこすったり、水泳帽(またはシャワーキャップ)をかぶらなかったりすると注意されるものだが、ここは比較的ゆるかった。サッと体に湯をかけ、ぬるめだと教えられた湯につかる。極楽、極楽。無色無臭のアルカリ炭酸泉、肌に優しいお湯だ。一般に、烏來の湯は美人の湯として知られている。これで女子力も数段アップしたに違いない。
ただひとつ気になるのは荷物。コインロッカーはなし、湯船の近くに置けば濡れてしまう。パイプおじさんのすすめで高台に置く。近くにいたおばさんは奥へ置け、別のおじさんはあまり荷物から離れるな、という。彼らの言葉を信じてその場を離れるもやはり心配。景色を楽しみたいのに、美景に背を向けバックパックを見つめる私……。常連さんのなかには大きなゴミ袋持参で来ているツワモノもいた。あぁ、その手があったか! だが時すでに遅し。
自由気ままな台湾の人々。私も倣って自由人になる
パイプおじさんが友達を紹介してくれた。彼らと一緒に湯に浸かるが、私には少し熱い。風が吹くと川の水が湯船に注がれ気持ちいい。もっと、と思うが新参者ゆえ遠慮がちになる。
ふと川を見ると流れて行く人が。しばらくすると同じ光景が。どうやら川に流されて遊んでいるらしい。いい年した大人だが、実に楽しそう。よくよくまわりを見てみると、寝ている人、マッサージしている人、ストレッチしている人。湯の中でスマホしている人、弁当食べている人……、実に自由すぎる。するとパイプおじさんがパイナップルをひと切れ差し出した。遠慮するな、といっているようだ。ああ、私も自由人の仲間入り。とても甘くておいしい!
さっきまで強く感じた陽射しが陰り始めた。山の上を見ると、黒い雲が覆っていた。雨が降り出しそうだ。パイプおじさんにお礼をいい、温泉を後にした。歩き疲れた足も、べとついた体もさっぱり。地元の人の温かさ(自由さ?)に触れて心まですっきりした。なお公共露天風呂は水着、タオルをお忘れなく。
※【訂正】ここで紹介している烏來の無料露天風呂ですが、新北市政府は2017年5月にこららの無料露天風呂の撤去を実施しました。もともと違法であったこと、またゴミなどの環境汚染や川の増水時の事故などが問題になっていたようです。将来的には、烏来区役所が管理する親水歩道と足湯を設置する計画だそうです。
【ミニコラム】知っておきたい台湾の温泉事情
日本同様、各地で豊富な温泉が湧き出る台湾。多くの人がその自然の恵みを堪能している。しかし日本と異なる台湾式温泉ルールがある。
例えば、露天風呂は水着着用の男女混浴が一般的で温泉プールといった雰囲気。裸で楽しみたい人は個室風呂か内湯の大浴場へ。また脱衣所と洗い場が一体化した施設が多数。足下はビショビショ、湯船に浸かる人の視線を感じながら着替えるのは、日本人にはちょっと抵抗があるかも。
ほかにも、入浴前には足に湯をかけてから入る、湯船のなかで肌をこすらないなど。これらを破ると温泉の主からひと声が飛んでくること間違いなし。郷に入れば郷に従え、台湾ルールを知って気持ちよく湯に浸かろう。