【バス旅DATA】
路線:大南汽車 小36(捷運石牌站(東華)-六窟)、小25(六窟-捷運北投站(北投))
乗車ルート・運賃:捷運石牌站(東華)→行義路四、行義路三→六窟、六窟→北投文物館 15元/1回
所要時間:1日(観光時間含む)
※運航時間・運賃・路線は変更される場合があります。
【バス旅ポイント】
①台北市の3つの温泉めぐりができる!
②自然の風景が車窓から眺められる!
③グルメも一緒に楽しめる!
④とにかく、ビールがうまい!
⇒ 台北市バスの概要
山エリアを走るのは、黄色いミニバス
日本に引けを取らない温泉大国、台湾。首都の台北にだっていくつもの温泉地がある。有名なのはMRTで行ける北投温泉(ペイトウウェンチェン)。でも、同じくらい手軽に行ける温泉地が紗帽山温泉(シャーマオシャンウェンチェン)だ。アクセスは、MRT石牌站からが一般的。駅1番出口脇にある捷運石牌站(東華)バス停から小36路線に乗り温泉地まで向かう。ここは始発駅だからホームページにもバス停にも時刻表があった。10時40分、予定時間ぴったりにバスは来た。20人も乗ればいっぱいになってしまいそうな黄色の小さなマイクロバス。だから路線名の頭に「小」が付いているのだ。
乗客を乗せるとバスは発車した。進行方向に向かって左側の運転手側は2人掛け、その反対は1人掛けの座席が並ぶ。平日のせいか空席が目立つ。アナウンスが流れ、綜合市場という名のバス停で止まると買い物帰りの数人が乗り込んできた。日が暮れるとこの辺りは夜市になるという。大きな病院を過ぎると、道は徐々に登り坂になり、山道に入っていった。沿線に並ぶのは立派な住宅やマンション。そしてどんどん上り、カーブを曲がろうとしたそのとき、眼下に見えたのは小さくなった街並みだった。前方には迫りくる山々。「わぁ、ホントにここは台北?」思わず声が出る。
駅前にそびえていた高層マンション群の姿を見たのはわずか10分前。にもかかわらず一気に山の中へとワープした。温泉がグッと近づいてきた。それからさらに10分、目的の行義路三バス停についた。市中心部から20分強。台北は温泉が目と鼻の先にあるのだ。
小さな温泉郷、紗帽山温泉で湯上がりビール!
バスを降りると目の前には温泉が。前方の看板が示す行義路300巷を下る。すると絶景が広がった。緑の山がドーンと迫る。畑で作業しているおじさん、採れたて野菜を売るおばさん、そんなのどかな風景が広がる山あいに紗帽山温泉はあった。10ほどの温泉施設が点在するそのエリアを歩いていると、和風の建物がちらほら。どこからか演歌も流れて来た。もちろん日本語だ。どうやら台湾人にとって温泉イコール日本、という考えが根付いているようだ。するとおばさんが声を掛けて来た。『川湯温泉養生餐廳』(チュァンタンウェンチェンヤンシォンツァンティン・台北市北投區行義路300巷10号)はスパもあり、おすすめだという。さっそく行ってみると、京都の街並みをイメージしたという施設は、台湾らしさには欠けるがなかなか趣があった。
この一帯の温泉は宿泊施設を持たない代わりに、一定額食事をすれば入浴が無料というのが一般的で、ここも例外ではなかった。もうすぐ昼も近い、そのコースに決めて食事は入浴後にとることにし大浴場へ向かった。男女別に分かれた裸で入る半露天風呂。だが残念なことに、陽射しを遮るビニールシートで覆われ、景色は見えない。けれど湯は最高だった。ここは世界でも稀な皮膚病や筋肉痛に効くという青硫黄泉と、腰痛や婦人科系によいとされる白硫黄泉の2つが楽しめる。湯船のなかにはジェットバス機能もあり、片隅にはサウナやマッサージ室もあった。しばしのんびりと湯を楽しむことに。
湯から上がるとお食事タイム。地鶏や山菜が並ぶメニューは台湾風あり、日本風ありとバラエティーに富んでいる。看板メニューの塩卵とニガウリの炒め物や蜜漬け豚の炒めものはビールが進む味。やはり風呂上りのビールは格別! でも地元の人は誰も飲んでいない。友人と私だけが真っ昼間からほろ酔い気分で、のんびりダラリとした贅沢なひとときを楽しんだ。
店を出て歩いていると、遊歩道に出た。階段の上には白くむき出しになった岩の間から立ち上る湯気とプクプクと湧き出す源泉があった。硫黄の臭いもプ〜ンとただよってきた。それから行義路402巷を歩いて行くと、だんだんと上り坂になりバス停の通りに出た。グルリと温泉エリアを一周した形だ。今度は行義路四のバス停から六窟方面を目指すことにして、行きと同じ小36路線を待つことにした。
六窟温泉で、地元のおば様たちの洗礼を受ける?
山エリアを走る小36バスは1時間に1〜2本程度しかないローカル路線だ。午後の強い陽射しの下、しばしの待ちぼうけを喰ってしまったが、この待ち時間もバス旅の醍醐味ということで。
来たバスに乗り込み山道を上って行く。気付くと窓の外には先ほどの温泉郷が小さく見えた。さらにくねくねと行く。心なしか道幅も細くなってきて、なんだか心細くなってしまった。前の席のおばさんに声を掛けると日本語を交えながら、六窟温泉(リュウクーウェンチェン)は次のバス停だと教えてくれた。
そこは紗帽山温泉よりもはるかに山の中だった。見渡すところ温泉施設は1ヵ所のみ。だから必然的に誰もがそこ『六窟温泉餐廳』(台北市北投區湖底路81号)へと歩き出す。ここも温泉とレストランが融合した施設で宿泊はできない。そのせいかお客の大半は地元の人。食事はすでに済ませた我々は入浴だけを楽しむことにした。
裸で入る男女別の湯はどちらも内風呂だが、男湯は70元、女湯は250元と料金にかなり差がある。なんでも女湯は広く、ジェットバスや打たせ湯もあるそうだ。もちろん誰にも邪魔されずに湯を楽しみたい人には個室風呂もある。私は大浴場をチョイスした。
女湯のドアを開けると脱衣所があり、どこか日本の温泉に近い感じ。鍵付きロッカーを使うには、あらかじめ受付でデポジットの100元を支払う。使用後には返金されるのだが、なぜか使用率は低め。カゴにポイっと置いている人、浴室内のロッカーに持ち込んでいる人(なかにはゴミ袋に入れて防水対策している人まで)、客の多くが常連さんのようで独自のルールがあるようだった。
シャワーでサッと汗を流して湯船に向かう。足を浸けようとすると、おばさんが足に湯を掛けろ、という動作を見せる。今シャワーで流したばかりだが台湾式温泉ルールに従う。桶で湯を足に掛けるとちょっと熱い。仕方がないのでとなりの湯船へ。するとほぼ水。そのまたとなりは温泉プール並みの温度でジェットバス付だ。どこも私には微妙な温度。さて、どうする。意を決し最も温泉らしい最初の湯船へ。少しずつ湯のなかへ沈んで行く。すると先ほどのおばさんが、ジッとしていろ、とアドバイスをくれた。動かなければ熱さをしのげるとか。湯のなかで小さく固まる私。なんだかリラックスしきれない。
泉質は硫黄泉と炭酸泉の混合湯で、心臓病や高血圧、動脈硬化に効果があるとされる。なんとなく肌もスベスベになって来た気がするから皮膚にもよいのだろう。でも熱い。3分も入れば十分。ジェットバスに移動する。肩・腰にブクブクとした水流が当たり凝った筋肉をほぐしてくれる。はじめはぬるいと思った湯も慣れればこれもいいものだ。熱い湯よりは断然くつろげる。
さて、余裕が出て来たところでまわりを見まわしてみる。平日の午後のせいか、おばさん率高し。アラフォーの私もここでは若者の部類だ。湯船の縁で岩盤浴さながら寝ころぶ人、ひたすら3つの湯船を巡る人。ここはそんなおば様たちの社交場でもあるようだった。奥の休憩室では持参した弁当やドリンクを片手に話に花が咲いている。しかもほぼ半裸。湯湯着だったり、ムームーだったり、Tシャツとパンツ姿だったりするのだが。浴室ではタオルで隠すこともないのだから、これでいいのか。そんな様子をジーッと見ていると、視線に気づいた1人のおばさんが手招きしてここにある水を飲めとジェスチャーする。笑顔を返し湯に浸かり続ける私。あの輪に入ったらきっと台湾流の厚いもてなしが待ち受けていることは容易に想像できた。熱いのは湯だけでたくさん。ちょっとのんびりさせて!
そんなおば様たちは2時間でも3時間でも、それこそ半日、1日と楽しむのであろう。1時間も経たずに湯から上がると、受付嬢はもう出たのかと驚いていた。
小25のバスに乗り換えて、シメは北投温泉
六窟バス停に着いて気付いたことがある。ここには北投温泉まで行く小25路線バスが通っていた。それを見た瞬間、北投温泉まで足を延ばすことに決めた。「台北市・湯めぐりの旅」である。
バスを待つ。小25も小36に負けず劣らずのローカル路線、1時間に1本程度しか走っていない。何時にバスが来るのかイマイチ分からなかった。そこでバスを待つ人に声を掛けてみる。するとやはりいた、日本語のできる人が。山登りに行ってきたというおばさん、おじさん軍団だった。仲間と連携を取り、アプリで調べる者、英語で質問してくる者、日本語で通訳してくれる者……。あっという間に情報が集まり10分ほどでバスが来るということがわかった。そして時間近くになると、山の下の方からぐんぐんと近づいてくる小さな黄色いバスが見えた。
途中までは小36と同じ道を走ったが、惇敘工商(泉源)バス停を過ぎると先ほどとは違う道を入って行った。すると右手の窓の下には源泉が広がっていた。そこだけむき出しになった地面、いたるところから上がる湯けむり。ここは白硫黄の源、硫磺谷(リウファングー)だった。雄大な自然を感じながらバスは徐々に山道を下って行く。
北投文物館バス停で下車した。『北投文物館』(ペイトウウェンウーグアン・台北市北投區幽雅路32号)は民芸品の博物館だ。その歴史は古く建造は日本統治時代の1921年ごろ、木造2階建ての純和風建築で、前身は『佳山旅館』という名の温泉宿であった。当時は高級旅館として、また戦時中は神風特攻隊の宿泊所として使われてきたという。台湾に日本を見つけた瞬間だった。
ここからは歩いて山道を下る。温泉ホテルが並ぶ幽雅路をくねくねと行った先は温泉街へと通じていて硫黄臭たっぷりの地熱谷をゆっくり歩いてみる。それから温泉街の遊歩道に。小川を流れる水、木々を揺らす風、夕刻だというのにまだまだ暑いが、それらが心地いい。
そうして最後にやって来たのは『瀧乃湯』(台北市北投區光明路244号)だ。1907年創業、百年を越える歴史を持つ温泉で、周辺に並ぶ高級ホテルとは異なる空気が流れている。ここだけ時が止まり、昭和の銭湯が突如現れた。
入口すぐが番台になっていて、男女別の湯に進む。裸で入るのだが脱衣所なんてものはない。湯船の脇を通り抜けた先にある洗い場の隅で着替える。もちろんロッカーに鍵なんて求めてはいけないし、足下がビチャビチャなのも気にしてはいけない。そう、ここのウリは湯。北投一帯と秋田県の玉川温泉にしか湧き出ない青硫黄の湯は強酸性の天然ラジウム温泉だ。それがたったの100元で入浴できる。ところが湯が熱すぎる。ちょこっと手を入れ、足を入れチャレンジしたものの、浸かるのはちょっと無理だった。お世辞にも美しい、とはいえないが、ノスタルジック感は満点の温泉だ。
ここからMRT新北投站はすぐそこだ。駅前の『拾米 To Go』(台北市北投區泉源路12号)のビール瓶が目に留まった。どうやら地ビールが飲めるらしい。よし、ラストはオシャレカフェの台湾クラフトビールで乾杯だ! ちなみに温泉にはタオルを持参すること。